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「いや、そこまで確かなことにはしませんでしたが」
家の入口には二軒の百姓家が向い合って立っている。家の前庭はひろく砥石といしのように美しい。ダリヤや薔薇ばらが縁を飾っていて、舞台のように街道から築きあげられている。田舎には珍しいダリヤや薔薇だと思って眺めている人は、そこへこの家の娘が顔を出せばもう一度驚くにちがいない。グレートヘンである。評判の美人である。彼女は前庭の日なたで繭まゆをにながら、実際グレートヘンのように糸繰車を廻していることがある。そうかと思うと小舎ほどもある枯萱を「背負枠」で背負って山から帰って来ることもある。夜になると弟を連れて温泉へやって来る。すこやかな裸体。まるで希臘ギリシャの水瓶である。エマニュエル・ド・ファッリャをしてシャコンヌ舞曲を作らしめよ!
それを今又さつぱりとやつてしまつたのだ。髯のなくなつた彼の顔は、ずつと前のそれに逆戻りはしないで、病後の面変りも手つだつて、その円つこい縮ちゞかんだ輪郭が何かしら小さく、愛くるしげに見えた。
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
「さうだつてねえ」
「へえ、――どうもごていねいなことで――」
犬が何を見つけたのか、その時さつと身を躍らして傍の草地にとびこんだ。二三度そこらをぐるぐると廻ると、鼻の先に真新しい土をくつつけてまた房一の傍にもどつて来た。
各区内から繰り出された行列はちやうど正午少し前に上手の小学校に集合し、一斉に万歳を奉唱し、中食をすませて更に町内を練り歩くことになつていた。はじめから主だつた町内を歩くのでは照臭てれくさくもあつたし、且つは又家の少いところを先に済ませてしまはうといふ考へから、紙着の一隊は先づ手はじめに河向かはむかふへ繰り出したのであるが、それが失敗の基だつた。路は近さうに見えて案外遠かつた。大体いゝ加減なところから引返して来はしたものの、なにしろ足はめつたにはいたこともない木箱につゝこんでいるのだつたし、十一月とは云へ日に照りつけられ、汗ばみ、埃をかぶり、紙衣はがさがさして歩きにくいことこの上もなかつた。そして、笏しやくを胸のところに両手で捧げ持ち、多少とも気を張つて真正面をむいて歩くのは、かなり努力の要ることだつた。しまひには、木箱の中で突つかける指先きに豆ができたばかりでなく、薄い板片れでつくつたその沓底は割れるものが続出し、中には様子を見ながらつき添つて来た男に家まで草履をとりに走らせた者があつた位だつた。
それが堂本だつた。
と、房一が台所に声をかけた。
それは房一がこれまでに漠然と想像していた練吉とはかなりにちがふものだつた。以前見かけた練吉の学生服姿、その良家の子弟らしいつんとした近づき難さは、どこかにのこつていたが、或る柔い、善良さが今の練吉からは感じられた。
彼の妻の茂子は昨日実家へ帰つたばかりで、この家にはいないのである。
「うん」